Captiveレポートを掲載しました。
キャプティブ活用の再熱化
2015年以来低下傾向に有った世界のキャプティブ数が増加に転じた模様です。また、既にキャプティブを保有する企業もその活用方法の見直しに積極的になっています。
2019年の世界のキャプティブ数は約6,135社。(Business Insurance/BI統計)2020年は統計元により若干の差異はありますが、コロナ禍にも関わらず前年度を上回った模様です。(6,304社が最も大きい発表)
國際保険ブローカーMarsh社に因ると、2020年度のキャプティブのマネージメント獲得数はコロナ禍にも関わらず100社以上、累計で1500社に達した模様です。
キャプティブを保有する企業で米国社が占める割合は約50%です。S&P500社の約80%はキャプティブを保有していると思われます。本邦企業は140社以上が保有している模様です。
設立地(ドミサイル)のトップは、最も歴史の有るバミューダ諸島で715社、続いてケイマン諸島618社、米国バーモント州585社、ユタ州435社、デラウェア州366社、バルバトス諸島294社が続きます。(BI統計) 日系企業ではハワイ州約45社、続いてミクロネシア諸島約25社、バミューダ諸島約24社、ラブアン約15社の人気が高いです。(独自調査)
弊社にもキャプティブ設立の相談も然ることながら、既存キャプティブをどのように有効利用したら良いかとのセカンドオピニオンの相談が増加しています。以下にキャプティブの設立や見直しの背景を記述いたします。
①世界的な異常気象に因る自然災害(台風/ハリケーン、洪水/津波、地震、森林火災)の増加に因る新たな各種対策、新規ビジネスモデルに対応する損害保険商品の強化(役員賠償保険、専門職業賠責等)サイバーテロやランサムウェアー(身代金要求型)の被害の増加で効果的なリスクヘッジ手法が必要となった。
②上記に伴い元受保険会社のみならず再保険会社の引受けリスクが上昇し保険料が高騰。種目に因っては保険引受の拒絶(特に医療関連)や引受け限度額を縮小する事態が多発して来た。所謂、損害保険マーケットがハード化してきた事に因る対策。
③企業は必然的に保険会社のみにリスクヘッジする事から、キャプティブ等を有効利用した自家保険の選択肢が増えた。
④ 既存キャプティブオーナーはキャプティブの伝統的利用(単純な再保険による自家保険)からハイブリッドな利用(+ART/保険派生商品)へと進化してきた。
⑤キャプティブを親会社の収益向上(連結決算や配当金)やROE向上のため財務戦略に積極的に利用する企業が増えてきた。
こうした背景からキャプティブを所有する親会社はステークホルダーに対する企業価値の向上、収益増加のため、COR(保険料を含めたリスクマネジメントコスト全般)の削減や積み上がったファンドの資産運用。そして、自社リスクに相応しいリスクマネジメントを実行しています。そのためには、CRO(リスクマネジメント総責任者)がリーダーとなり、CFOと共に保険や財務を含めたリスクヘッジプログラムの組成を主導し、キャプティブを含めた自家保険を活用します。
具体的な利用方法は多種多様(補足説明参照)ですが、リスクマネジメント(RM) やキャシュマネジメント(CM) として効果は明らかで親会社のステークホルダーからの評価は高まっていると思われます。キャプティブの50年以上の歴史や6300以上の設立数はその証左でしょう。少なくとも企業が抱える各種のリスクを専門チームが洗い出し、評価(定性、定量/頻度+規模)し、コントロール(防止、縮小、削減)し、自己保有や移転(保険会社、金融機関、資本市場)するリスクマネジメント戦略に役立っています。
節税目的に特化したスキームが存在するのも事実ですが、税務当局の取り締まりは以前より増して強化されています。昨今ニュースになっていますOECD加盟国の税務強化策はその証左でしょう。米国では831bと呼ばれるマイクロ(小型)キャプティブ向けの節税手法の悪用がIRSにより徹底的に叩かれ、それを利用した日系企業も保険料の損金否認や収益の合算課税で追徴課税されたケースも出ています。
本邦国税当局も2017年には、“ペーパーカンパニー基準”(実体基準や管理基準の強化)や2019年には、“キャシュボックス基準”(投資のみを目的とした器の排除)を厳格化し、基準外には合算課税や保険料の損金否認を行っています。今後は節税目的より本来のリスクマネジメント、キャシュフローマネジメントの目的に沿う運用が望まれます。
キャプティブをRM/CMとして正しく運用すれば、企業のリスクヘッジや財務戦略として有効なツールで有ることは間違いありません。そのためには、如何に知識と経験、海外ネットワークを持つドミサイルに認証されたキャプティンブマネージャーと付き合う事だと思います。必然的に、良い元受保険会社、再保険会社、適切なドミサイル(税務会計事務所、弁護士事務所含む)と取引が可能となります。キャプティブ運営の成功の”鍵“と言っても過言では有りません。
参考までに、近年ブームとなっている米国ハワイ州に設立された本邦企業を親会社に持つキャプティブで比較的新しい会社を紹介いたします。(ハワイ州公表データを基に独自調査を含め作成)
- 1. NTT Reinsurance(NTT)12/2018
- 2. LEHG Insurance (N/A) 3/2019
- 3. Weizman Reinsurance(N/A)3/2019
- 4. HA Insurance (N/A) 3/2019
- 5. ABLE Guarantee Reinsurance (保証)8/2019
- 6. Olympus Global Insurance(オリンパス)9/2019
- 7. Aisin Reinsurance America(アイシン精機)9/2019
- 8. Panasonic Global Reinsurance(パナソニック)12/2019
- 9. Terumo Global Reinsurance(テルモ)2/2020
- 10. Ktouch Insurance (自動車) 2/2020
- 11. New Gala Gold Insurance(不動産関連) 2/2020
- 12. Renewable Energy Reinsurance(再生エネルギー) 3/2020
- 13. NANZANDO Re (調剤薬局) 5/2020
補足1:キャプティブ利用の具体的な期待効果
- 1. 各種リスクを自家保有することに因り、自社の総支払い保険料を削減する。
- 2. 自社の財務内容に見合った保有金額の設定(免責金額、エクセス/階層区分と金額)
- 3. キャプティブが再保険の利用により、元受保険料と再保険料の差額を収益計上する。
- 4. リスクマネジメント/リスクコントロールにより事故が減少すればキャプティブの収益が増加。
- 5. 再保険マーケットへの参入が可能となり、世界のマーケット情報が入手出来る。
- 6. 自社特有のリスクに基づき、テーラーメードの保険商品の設計が可能。
- 7. 再保険や資本マーケットから新たなリスクヘッジ手法(ART:保険派生商品)を設計する機会が得られる。
- 8. キャプティブ収益の運用(投融資)や配当金支払いの柔軟性を享受出来る。
- 9. 税率の差額により節税メリットが取れる場合が有る。
- 10. 保険会計(支払準備金やIBNR/未報告事故)の利用に因る収益計上の柔軟性。
- 11. キャシュフローマネジメント(配当金の支払いタイミング)による年次P/Lの平準化。
- 12. 受取配当金の活用や連結決算によるROEの改善が可能。
補足2:利用保険種目
- 1. 自然災害をカバーする火災保険/地震保険や営業休止を補填する利益保険
- 2. PL(生産物賠償)を含む損害賠償責任保険
- 3. 国際貿易に関わる海上保険
- 4. 労働災害補償保険(主に米国企業)
- 5. 取締役の経営リスクをカバーする会社役員賠償保険(D&O)
- 6. サイバーテロ/ランサム攻撃に対応するサイバーセキュリティー保険
- 7. サプライチェーンの分断リスクをカバーする営業継続費用や構外利益保険
- 8. 取引先の債務不履行に因る取引信用保険
- 9. 医療ミスによる医療過誤保険
- 10. 製品保証(ワランティー)関連。
- 11. パンデミックをカバーする興行中止保険。(今後の予測)