Captiveレポートを掲載しました。
キャプティブとの接点
キャプティブの歴史と現状について、小職の経験から記述させていただきます。個人の経験ですが、皆様の参考になれば幸甚です。
最初にキャプティブと言う “言葉” を聞いたのは、1987年にAIG社でNY駐在した時です。職責は財務関連でしたが、企業営業のスタッフたちとの関りも多く、話題に挙がるキャプティブとは何か興味津々でした。内容をエキスパートに聞いても未熟な英語で知らない内容を理解するのは至難の業でした。(殆どわからなかったと言うのが事実)そこで書店に駆け込みキャプティブの入門書を探し出したのが、1982年に出版された CAPTIVE INSURANCE COMPANIES, 著者P.A.BAWCUTTです。ここでキャプティブの概略を学べました。(1996年に翻訳本である ”キャプティブ保険会社” が保険毎日新聞社より出版されました。この本によりだいぶ理解出来たのが本音です)
その後、1995年にAIU保険会社で国際営業部に配属され、キャプティブを含めた企業のリスクマネジメントを学びました。その際に役立ったのは、書籍 ”リスクマネジメント論及びキャプティブ研究” どちらも明治大学森宮康教授著でした。幸いにも顧客にキャプティブを所有する欧米大企業が多く、実践でも経験を積むことが出来ました。
当時、AIUを含めた外資系保険会社は、在日外資系企業のビジネスのシェアは高かったものの、日系大企業のビジネスはごく僅かでした。そこで欧米企業のリスクソリューションで培ったキャプティブを含む自家保険をビジネス拡大のために提案しました。ご想像通り、日系巨大損保社の壁は厚く思う通りにビジネスは獲得できませんでした。然しながら、日系企業の保険担当者も欧米駐在経験でキャプティブを実践し、またインターネット等の情報源の拡大でキャプティブを学び理解者が増えました。環境は変わりつつありましたが、顧客企業の既存損保社との長年にわたる諸関係(敢えて書きませんが)がハードルとなり、提案と情報提供のみで終わり最終的にビジネスに至らなかった苦い経験が有ります。ただ、我々の努力を評価下さった企業担当者は上席を説得し、再保険や他の保険種目のシェアを獲得する機会をいただけたのは感謝しております。
1998年、キャプティブを実践的に主導したい一存から、キャプティブを含むリスクファイナンス手法を企業に提案するAIG Risk Finance 社に異動し、NY本社やバミューダで本格的な手法を学びました。メニューは豊富で、Deductible Funding Program, Excess Program, Basket Aggregate Program等をRent-a-CaptiveやCaptiveを通じて提案しました。数社の成果でしたが、日系損保社が提案しないユニークなプログラムの紹介は上記同様評価され、営業現場へのリスクトランスファービジネス (リスク移転商品) に少しは寄与できたと自負します。
2000年、ACE(現chubb保険)に転職し企業営業全体を担当しました。言うまでも無くCaptiveの推進にも関わりました。マーケットの環境も大きく変わり、顧客企業からキャプティブの新規提案、既存キャプティブの見直し、レトロセッション(顧客が既に所有するキャプティブからの再保険)の依頼が多く来ました。旧ACEは元々バミューダで設立されたグループキャプティブ(米国ブルーチップ企業34社が株主)でビジネスが軌道に乗り総合保険会社に転換した歴史があります。マーケットからの信頼も厚く(特にチャネルである外資系ブローカー)多くの相談や提案を実行しました。
その時期欧米各国ではART(Alternative Risk Transfer)と呼ばれるキャプティブを含む保険派生商品(日本では代替的リスク移転と呼ばれた)に再び脚光が当たり、キャプティブのみならず新たなリスクファイナンス手法が出現しました。それらは、ファイナイトプログラム(一言で表現すると企業の長期積立保険)を利用したテーラーメイドの長期保険プログラムや保険デリバティブ(保険や類似商品の相対取引)でした。ファイナイトプログラムに関し、旧ACE社は本邦大手損保社と共同で開発に着手しましたが、商品認可は得たものの、税務処理での見解の相違が埋められず、元受での取扱いは出来ませんでした。その後、米国でのリーマンショックや再保険を利用した会計手法が問題視され、ファイナイトプログラムのブームは立ち去りました。
現在、日系企業が持つキャプティブ保険会社は100社以上存在すると言われています。主な設立地はかつて、バミューダ、シンガポール、ガンジーが多かったものの、近年はハワイ、ミクロネシア、ラブアンの名前が多く挙がっています。キャプティブの認知度の高まりやプレーヤーが増加した事に因り、健全にキャプティブ運営をしている企業が増えたと同時に、誤った使い方や十分に活用できていない企業が存在するのも事実です。正しい理解と運用を行えば、今後更にキャプティブスキームを利用した企業の自家保険は拡大するでしょう。