ILS/CAT Bondの現状
ILC (Insurance Linked Security:保険リンク証券) とは保険派生商品の1つで、代表的なものは地震やハリケーン等の自然災害リスクを損害金支払いのトリガーとする債券やデリバティブです。中でも、CAT Bond (Catastrophe Bond)と呼ばれる大災害債券は良く知られています。 自己のリスクをヘッジしたい保険会社、再保険会社、共済、事業会社、公共機関等がスポンサー(債券発行体)となり、そのリスクを資本市場の投資家にヘッジする仕組みです。
例えば、A保険会社が複数の企業顧客から地震保険を引き受け、自社保有可能なリスクの許容範囲を超えたとします。通常超えた部分は再保険マーケットでリスクヘッジするため一般の再保険を購入しますが、十分にリスクヘッジが出来ない場合(ヘッジ金額や価格レベルの相違)があります。その場合は、CAT Bondを利用して地震リスクを投資家にヘッジします。各種ファンド、事業法人、富裕層等の様々な投資家が地震リスクを引き受けるわけです。
また、電力会社はハリケーンで自社の発電設備がダメージを受け電力供給が停止した場合、多大な利益損失を被ります。電力会社は保険会社から購入している利益保険の補填では足らず、CAT Bondを通じてそのリスクヘッジを十分に行うことが可能となります。
発行体である保険会社や電力会社等のスポンサーは、投資家に対して魅力ある債券にするために金利を高めに設定する必要が有ります。通常は一般債券マーケットより高めのLibor+αで設定し、一般的に期間は2-5年です。現在発行されている債券の平均金利は2~3.5%レベルです。(2017年度)それに対して投資家は、トリガーである地震やハリケーンが発生した場合は償還金額が大幅に削減されるリスクがあります。言い換えれば、CAT Bondはハイリスク・ハイリターンの商品です。
トリガー(支払い要因)設定も様々です。地震債券で代表的なものはパラメトリック方式と呼ばれ、一定のエリアでマグニチュード〇以上の地震が発生した場合に発動するケース。ハリケーンでは一定のエリアでハリケーンのスケールが〇以上になった場合に発動するケース等。電力会社の例ですと、所有する発電所のうち〇%が機能しなくなった場合に発動するケース等さまざまに設定出来るのが特徴です。これは損害保険会社の保険金支払いと異なり、現場での損害調査の必要は無く、客観的な事実から結果が判断できるので、損害査定コストは大幅に削減出来、債券利率を上げる要素になります。
一方投資家サイドは、リスク分析の専門機関(AIR,RMS等)が算出したデータを基に、保有期間中の元本毀損リスクと受け取り金利のバランス、リスクとリターンを天秤にかけて投資します。最大の投資メリットは、一般の株式や債券は政治経済等に関わる金融リスクを持ちますが、当該債券はそれらと全く相関しない優位性が有ります。投資運用ポートフォリオの構築に最適です。
現在流通しているCAT Bondの発行額の総計は、約290億ドル(約3兆円)に達しています。需給状態も良好で、通常では発行額に対して2~3倍の応募がある状況です。2017年度の発行額は36債券107億ドル(約1.15兆円)に達し、過去最高の発行額を更新しています。
因みに日本では、オリエンタルランド(ディズニーランド運営会社)、JR東日本、全共連(JA共済)、東京海上、損保ジャパン、三井住友各社が起債しています。中でも全共連の地震債券 (Nakama Re) の起債は積極的で、2018年度は7億ドル(約750億円)の起債を目標にしており、達成は確実視されています。